なぜ日本はプルトニウムを生産するのか

GEPRフェロー 諸葛宗男

はじめに
アメリカがプルトニウムの削減を求めてきたとの報道があってプルトニウムのことが話題になっている。まず、日本がなぜプルトニウムを生産するのかを説明する。もちろん、高速炉が実用化されたらプルトニウムを沢山使うようになるから生産するのだが、原爆製造のためだと言うデマを信じ込んでいる人が多い。その高速炉の実用化は先送りになったから当面はウラン燃料を1~2割節約するのが主な目的だ。16~18基の軽水炉のウラン燃料の約3分の1の燃料をプルトニウムが入ったMOX燃料に変える計画であるが、その内、まだ4基しか適合性審査の許可が得られていない。政府としては一刻も早く16~18基とも動かしたいと思っているが、原子力規制委員会の適合性審査に時間が掛かっている。アメリカの要求に応えるため急きょエネルギー基本計画にプルトニウム保有量の削減を盛り込み7月3日に閣議決定した。

国民の中には再処理を止めるとなぜ原子力発電所が運転できなくなるのかを知らない人もいる。余り説明されていないことだが、再処理工場を建てる際、万一再処理が出来なくなったら持ち込んだ使用済燃料を引き取ると日本原燃青森県に約束している。この約束は日本原燃青森県の約束なので政府は関知していない。知らない人が多いのはそのためだと思われる。

再処理しないとなぜ原子力発電所の運転が停まってしまうのか?
最も判りづらいのはこのことである。政府は全国の原子力発電所の使用済燃料の貯蔵能力と現状の貯蔵量一覧表を示している。約20,000トンの貯蔵容量に対して約14,300トンを貯蔵している。貯蔵率は71.5%である。貯蔵余力が乏しいのは浜岡、玄海、東海第二の3つの発電所で、貯蔵余力は約3年である。一方、青森県に再処理工場を建てる際、青森県に対し、「再処理事業の確実な実施が著しく困難となった場合には、使用済燃料の施設外への搬出を含め、速やかに必要かつ適切な措置を講ずるものとする。」と約束している[注1]。万一再処理が出来なくなったら再処理工場の燃料プールに運び込んだ約3000トンの使用済燃料を引き取らなければならなくなるのである。上記の14,300トンに約3,000トンが上積されると貯蔵余力が半減する。再処理しないと原子力発電所の運転が停まってしまうのはこのためである。

なぜプルトニウム48トンは原爆4000発分なのか
日本が貯蔵しているプルトニウムは約48トンある。また、新聞等にはよく日本は原爆6000発を作れるプルトニウムがある、と書かれている。さらに、原子力の専門家は原子炉級プルトニウムでは原爆を作れないと言い、原発慎重派は原爆6000発分と言う。普通の人はなにが本当なのかが判らなくて困っているようだ。原爆に一番詳しい筈のアメリカが日本のプルトニウム保有量の削減を求めているからさらにややこしくなっている。

まず、なぜ新聞等のマスコミがプルトニウム48トンのことを原爆6000発分と書くかであるが、プルトニウム量が国民に判り辛いことと、原子力国際機関IAEAプルトニウム8キログラムを有意量[注2](1個の核爆発装置が製造される可能性を排除できない核物質のおおよその量)としているのがその根拠である。IAEAプルトニウムの組成の如何にかかわらず、プルトニウム8キログラムを有意量としている。だからマスコミはプルトニウム48トンのことを原爆6000発分と書くのである。